『看板に値段が付いてたんだけど、本当にこの金額で泊まれるの?』と問い合わせが来るようになり、少しずつお客さんも増え始めました。
でも、忙しくなってくると私の睡眠時間は毎日2〜3時間位がやっとの生活になり、疲れ果て布団に眠ることはほとんどありませんでした。そして、お客さんが20人位に増えた頃です。
ある不動産屋さんがAさんご夫婦を連れて来て、
『旅館を売って下さい。』
と思いがけない話があったのです。
私は、何度も断ったのですが、内金まで持ってきて『ぜひ売って下さい。その売ったお金で新しい旅館を建てれば良い。』
と話を持ち掛けられました。
正直、客室が足りずお客さんが子供部屋にも宿泊している状態だったので、私たちは我慢の限界でした。悩みましたが、売る事にしました。
そして、現在の場所に木造2階建15部屋を6,500万かけて新しい旅館を建てたのです。でも、Aさんからお金を受け取る当日になって、急にAさんは買うのをやめたと言ったです。
5日後にはお金を大工さんたちに支払う約束になっているので、大工さんに迷惑を掛けられません。買ってくれるはずのAさんに思い直すよう頼んだのですが、無理でした。
理由を聞いてみると、私たちが建てた新しい旅館を見たら、『とても太刀打ちできない。』と思ったそうです。
そして、私は9,500万の借金を負ってしまったのです。
(現在の価値で3億位でしょうか。)
また、私たちはどん底に突き落とされてしまいました。もう、がむしゃらに働くしかありませんでした。死に物狂いとはまさに、その時の私そのものでした。
私は母もやめ、妻もやめ、借金を返すだけの鬼になりました。看板に値段をはっきり表示するアイデアが当たり、次々とお客さんが来てくれました。
新しい旅館には色々な方が宿泊して下さり、特に実名は挙げれませんが、M機械さんが大勢で2年近くも宿泊してもらい、その頃の私には、本当に助かりました。
『この旅館はM機械さんに建ててもらったようなものだ。』と、息子との話には今でもよく話題になります。そのお陰で、現在の3階建マルユー旅館を建てる事が出来ました。
その旅館は私が旅館を創めた時に思い描いた旅館で、
やっと夢が叶ったと思いました。
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