私は1956年に青森県八戸市に洋品店の娘として生まれました。
19歳の時に両親から洋品店を引継ぎ、若くて頼りなく商売をしたことのない私の洋品店から、お客様は離れて行きました。
売上はどんどん下がり、ひどい時はお客様が一人も来なかった日もありました。
今でも思い出したくはない程辛い毎日、私の洋品店はついに閉店寸前にまでなってしまいました。
そして私は心機一転、わらにもすがる思いで近くに売りに出ていたマルユー民宿旅館を買いました。
当時のお金で3,000万円!!私はお金をかき集めやっとの思いで買う事が出来ました。
マルユー民宿旅館の前の女将が売買の交渉をしている時に、
「傍に大型デパートが立つから旅館はかなり儲かる。」と言っていた事を信じきって買いました。。
話を聞いた前の女将は青森市出身で「地元で商売をやりたく、青森に帰りたい為に旅館をもうやめたい。」
と言う理由で旅館売りたいとの事でした。
しかし、現実は話と違い、お客さんは全く来ない!!
私達はと言えば、四畳半の居間兼寝室に家族4人が住んでいました。
当時4歳の次男は『おかあちゃん、部屋が広かった洋品店に戻ろう。』と毎日泣いていたので、私の胸は痛みました。
そして、先代の女将の“お客さんがいっぱい来るからね”との言葉を信じていたのですが、
一週間経っても、マルユー民宿旅館には予約の電話も入らず、一人もお客さんがいない状態でした。
このままでは本当に家族が生きていけなくなると思い、どうすればお客さんが来るかを考えました。
マルユー旅館のステッカーを入れたポケットティッシュを中心街で配ったり、人が集まる地下街や繁華街
に手作りのポスターを貼ったりしました。
そんなある日、近所の中華料理店の奥さんから電話がありました。
お客さんが宿泊したいとの事です!!
しかもいきなり6人も!!
私は焦ってしまって頭の中は真っ白になり、どんな食事を出したらいいか分からなくなっていました。(こんなド素人が、この旅館業界に踏み込んでいいのか?)と弱音を吐いたくらいです。
今では笑い話のようですが、当時の私は本当に悩み苦しんでいました。
何しろ一人もお客さんがいないから。でも人間やれば出来るんです。
私は料理学校時代のレシピなどを参考に必死に作りました。
そのお陰で、初めてのお客さんに『ご飯、美味しかったよ。』と笑顔で喜んでもらいました。
その時は本当に感激しました。
この時、私は『これから何が何でも旅館を大きくして、
たくさんのお客さんの笑顔を見るんだ。』と心に誓いました。
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